イーサリアムは本当にオワコンなのか?
イーサリアム(ETH)が「オワコン」と呼ばれるたび、市場は激しい熱狂と急速な冷却を繰り返してきました。
こうしたレッテル貼りは一過性の価格動向に引きずられやすく、技術革新やエコシステム拡大の評価が後手に回る傾向があります。
以下に、主要なサイクルと「オワコン」言説が出たタイミングを示します。
- 2018 年:ICO バブル崩壊で ETH が 90 % 近く急落
- 2021 年:DeFi 夏と NFT ブーム後の調整局面
- 2022 年:FTX 破綻を契機に広がった信用不安
- 2025 年:年初から半値以下へ下落し「本格的終焉」説が再燃
これらの局面では「取引件数減少 → 投資家離脱 → 開発者コミュニティ縮小」という負の連鎖が繰り返し指摘されました。
しかし一方で、次の上昇期が来ると、前回の悲観は過度だったと振り返られるのも常です。つまり「オワコン論」はイーサリアム特有の周期的ボラティリティを映し出す鏡とも言えます。
歴史を振り返ると、イーサリアムは危機のたびにコア開発のロードマップ共有、ユースケースの多様化、コミュニティによる自己批判と改善策の実装 という 3 つのプロセスで信頼を回復してきました。
2025 年の急落も同じサイクル上の出来事なのか、それとも構造的限界の表れなのかを見極めることが必要です。
2025年のイーサリアム暴落はなぜ起こったのかを検証する
2025 年 1 月に 3,800 USD 近辺で始まった ETH は、わずか 5 か月で 1,700 USD を割り込みました。背景にはマクロ経済・オンチェーン動向・投資家心理が絡み合っています。
まずマクロ面では、米連邦準備制度がターミナルレートを 6 % 台で長期固定し、リスク資産全体が圧迫されました。金利上昇に伴い 「キャリー相場で稼げないなら安全資産へ退避」 という機関投資家の行動が強まりました。
オンチェーンでは以下の兆候が観測されています。
- 1 万 ETH 以上を動かす「クジラ」アドレスの出庫が週次で 12 % 増加
- ガス代低下でマイナー(旧 PoW)販売圧力は消えた一方、ステーキング報酬の再投資率も低下
- メインチェーン手数料が平均 0.17 USD に落ち込み、バリデータ収益が細る
これらの指標は、価格下落 → 大口売却 → 価格さらなる下落 というスパイラルを形成しました。
信用逼迫のなかで「ETH の安全資産としての地位」が疑問視され、Solana や新興チェーンの時価総額上昇が相対的に ETH への悲観ムードを強めました。
しかし、暴落局面でも TVL(Total Value Locked:預かり資産総額)の下げ幅が価格下落率を下回ったことから、DeFi コアユーザーの粘着度は高いと見る向きもあります。
要するに「流動性が縮んでもユースケースは消えない」という構造的底堅さがデータで確認されたのです。
イーサリアムのオワコンを招くリスク4選
イーサリアムのオワコンを招くリスクを解説します。
- 手数料急落でセキュリティが脆弱に
- Lido寡占による検閲リスクと分散リステーキングの課題
- 規制動向とETF承認の不透明さ
- MEVとブロックビルダー寡占
手数料急落でセキュリティが脆弱に
手数料(ガス代)は PoS 移行後もバリデータ報酬の基幹をなしています。
ところが、ロールアップ主導のスケーリングが進むにつれメインチェーンのガス消費は横ばい~減少傾向に転じ、2025 年 4 月の平均ガス代は 0.17 USD と 5 年ぶりの最安値を更新しました。
そして、以下の「負の連鎖」が現実化すると、ファイナリティ(確定性)遅延が頻発し、取引の最終確定が遅れることで取引所や決済サービスが稼働停止を余儀なくされる恐れがあります。
- 手数料急落
- バリデータ収入縮小
- ステーク解除/撤退
- ネットワークセキュリティ低下
- 攻撃コスト下落 → 51 % 攻撃リスク上昇
結果として「イーサリアムは安全でない」という風評が自己強化的に拡散しかねません。
対策としては、EIP-1559 によるバーン分の一部還元、EigenLayer のリステーキングによる報酬多角化、そして ブロブ市場手数料 をセキュリティ予算へ回す提案などが議論されています。
Lido寡占による検閲リスクと分散リステーキングの課題
Lido Finance は「リキッドステーキング(Liquid Staking)」と呼ばれる仕組みを提供する分散型サービスです。
簡単に言うと自分の ETH をイーサリアムのステーキングに出して報酬を得つつ、その間も“預け証明”トークンを使って自由に運用できるようになります。
2025 年 5 月時点で Lido Finance は 約 940 万 ETH(ステーク全体の 30 % 弱) を管理しています。単一プロトコルが 1/3 に迫るシェアを有すると、理論上は合意形成を一時停止させ得る拒否権を持ちます。
以下に、ステーキング寡占の影響経路を整理します。
リスク項目 | 影響 | 具体的な悪影響例 |
---|---|---|
地理的集中 | 規制命令が届きやすい | OFAC 制裁アドレスをブロック |
ソフトウェア単一実装 | バグ同時発生 | 大規模ファイナリティ遅延 |
ガバナンス集中 | 手数料設定を集団決定 | 少数者負担の増大 |
分散リステーキング(EigenLayer・SSV Network など)は寡占リスクを和らげる有望策ですが、「二重スラッシング(重複ペナルティ)」や 運用コスト の問題が新たな参入障壁になると指摘されています。
規制動向とETF承認の不透明さ
米 SEC は ステーキング付き ETF の審査を長期化させており、「有価証券性」を巡る議論が再燃しています。
英国 FCA は条件付きで ETH ETP を承認したものの、AML/KYC 強化で取扱業者は限定的です。
- ETF 不成立 → 機関資本流入の遅延
- 地域ごとに異なる規制 → 流動性分断
- 報酬モデル制約 → ステーク利回り低下
この三重苦が続く場合、「イーサリアムは規制リスクが高い」 との認識が投資家離れを招き、価格低迷とハッシュ(ステーク)縮小の双方を加速させます。
MEVとブロックビルダー寡占
MEV(Maximum Extractable Value)は、ブロックを作成・並べ替える人が、取引の順番や内容を調整して得られる追加利益を指します。
イーサリアムでは、同じブロックに入る取引の順序が変わるだけで価格や報酬が動くため、そこに付け入る余地が生まれます。
2024 年後半から 2025 年前半にかけ、上位 5 ビルダーが 80 % 超のブロックを構築 したという調査が発表されました。
ブロックビルダーは 「取引を集め、並べ替え、ブロック候補を作る専門業者」です。
ビルダー集中はサンドイッチ取引やフロントランの温床となり、一般ユーザーの取引コストを「見えない形」で押し上げます。
以下に、ユーザーが負担する実質コストの例を示します。
- 表示ガス代:0.40 USD
- MEV 抽出損失:0.75 USD
- スリッページ:0.10 USD
- 実質総コスト:1.25 USD
ブロック提案者とビルダーを切り分ける PBS(Proposer–Builder Separation) はこの不均衡を是正する鍵ですが、合意形成の遅れや実装難易度が足かせになっています。
イーサリアムの今後の成長シナリオ
ここまではリスク面を整理しましたが、イーサリアムが「終わらない」可能性も同時に検討する必要があります。
より詳しいイーサリアムの今後の分析を知りたい方は以下の記事をお読みください。
イーサリアムの今後の将来性は期待できる?2025年最新情報を元に徹底分析
Dencunアップグレードで実現するコスト削減
Dencun(Deneb + Cancun)の核となる EIP-4844(ブロブ・トランザクション) は、ロールアップデータをメインチェーン外へ安価に配置する仕組みです。
- ロールアップのデータ投稿コストを最大 90 % 低減
- 単純送金ガス代が 0.02 USD 台へ
- ブロブ容量を利用した新しい手数料市場(Blob Market)が形成
これにより、NFT ミントやマイクロペイメントが採算ラインに乗り、一般ユーザーの回帰が観測されています。
さらにバーンメカニズムにより ETH 供給が抑制され、トークン価値の下支え要因にもなります。
レイヤー2エコシステムの拡大
EIP-4844 以降、Arbitrum One・Optimism Mainnet の TVL 合計は 200 億 USD 近くまで回復しました。
Rollup-as-a-Service(RaaS) によって、プロジェクト固有のアプリチェーンを数クリックで立ち上げられる環境が整いつつあります。
- 初期費用:以前の 1/10 程度
- 開発期間:数か月 → 数週間
- デプロイ後メンテナンス:Rollup プロバイダーが代行
このコスト構造の変化は、「アプリは L3 へ、清算は L2 へ、最終確定は L1」 というマルチレイヤー戦略を現実のものにし、ネットワーク全体のスループットとユースケース多様化を後押ししています。
イーサリアムはビットコインを超える可能性があるのか
イーサリアムはビットコインを超えるのかを、以下の指標から分析します。
- ネットワーク効果(開発者数・dApp 数)
- マクロ環境感応度(リスクオン時の上昇率とリスクオフ時の下落率)
- 絶対的希少性(発行上限の有無・供給弾力性)
- セキュリティコスト(マイニング/ステーキング報酬)
ビットコイン(BTC)は固定供給2100 万枚とハッシュパワー=電力コストという単純明快なモデルで「デジタルゴールド」の地位を確立しました。
一方、イーサリアムは EIP-1559 によるバーンと ステーキング報酬のバランスでインフレ率を管理し、「超音波マネー」を掲げます。ただしトークンバーンがバリデータ報酬の減少に直結するため、ガス市場の縮小とセキュリティ予算のせめぎ合いが常に課題として残ります。
成長面では、スマートコントラクト(プログラム可能な取引ロジックの総称)の存在が圧倒的優位です。
NFT・DeFi・RWA といったオンチェーン経済圏は、BTC のレイヤー2(Ordinals・Stacks など)が急伸しても、依然 ETH が流動性のハブである事実は変わりません。
開発者ツールやライブラリが豊富な点も、イーサリアム優位の持続要因です。
結論として、時価総額逆転の可能性は中期的に残るものの、ETH が BTC を超えるには「価格保守性」と「エネルギー効率」を両立しつつ、規制対応で後手を踏まないことが必須条件です。
イーサリアムとビットコインのどっちを買えば良いか迷っている方は以下の記事を参考にしてください。
ビットコインとイーサリアムどっちを買うべき?初心者向けの投資方法を解説
イーサリアムと競合チェーンの比較
SolanaやAvalanche、Suiなど、競合チェーンとの将来性比較をします。
Solanaとの性能・安定性比較
Solana(SOL)は 数千 TPS(Transactions Per Second:1 秒あたりの取引処理件数)を誇り、手数料がほぼゼロに近いことから「大衆向けアプリに最適」と称されます。
とくに 2024 年後半の MemeCoin 熱で爆発的にアクティブユーザーが増加し、ETH と対照的な“高速・単一レイヤー”戦略が注目を集めました。
ただし、2024‒2025 年に複数回発生したダウンタイムが示すように、「高スループット=高可用性」ではありません。Solana のコンセンサスは巨大バッチ処理で効率化する一方、検証者ハード要件が高いためにノード分散度が落ちやすいのが弱点です。
イーサリアムは Dencun 後もロールアップによる水平分割で可用性を担保し、障害が起きても L2・L3 に局所化できます。
視点を変えると、Solana の「単一グローバル状態」は開発者にとって扱いやすく、状態遷移の整合性をチェーン側で吸収できるため、NFT ゲームなど“高速かつ一体型”の dApp には理想的です。
イーサリアムは EIP-4844→Verkle トライでステートサイズ削減を進め、ステートレスクライアントという別アプローチでスピードを追います。
分散性重視のイーサリアムと一体型性能重視の Solanaは、トレードオフを反映した補完関係に近づきつつあります。
Avalanche・Suiとのポジショニング比較
Avalanche(AVAX)は Subnet(独立サブネットワーク) 機構を武器に、企業やゲーム企業が独自チェーンを迅速に組成できるのが強みです。
コスト/セキュリティのカーブが異なるため、Avalanche は「プライベート鎖に近い柔軟性」、イーサリアムは「公共財としての安全性」と住み分けています。
一方、Sui は Move 言語を採用し「オブジェクト指向 UTXO」モデルでガス効率を最適化しています。並列実行によるスループットは秀逸ですが、イーサリアム・Solana と比べ開発者ツールと流動性が限定的です。
イーサリアムが担う ステーブルコイン流動性とオラクルインフラは、Sui や Avalanche が一朝一夕で代替できる規模ではありません。
総じて競合チェーンは「あるユースケースで優位 → エコシステム全体で追い上げ」という循環にあり、イーサリアムの弱点(ガス代・ステーキング集中・MEV)を突きつつ、依然として流動性とツール面で ETH ネットワークを補完する形に落ち着いています。
イーサリアムはオワコン?についてよくある質問
- イーサリアムの今後のアップグレードでオワコンリスクは解消される?
- イーサリアムは今からでも投資するべき?
イーサリアムの今後のアップグレードでオワコンリスクは解消される?
イーサリアムは今後のアップグレードでオワコンリスクが解消されるかですが、短答的には「リスクは緩和するがゼロにはならない」です。
Dencun でスケール問題が大幅に改善されたものの、セキュリティ予算枯渇やステーキング寡占といった経済設計リスクは“動的”であり、アップグレード単体で完全解決するわけではありません。
今後予定されている Verkle トライ導入は、フルノードが保持する状態データを簡略化し、ノード運営コストを下げて分散度を高める施策です。さらに ステートレスクライアントが実装されれば、「軽量ノードでも完全検証」が可能になり、検閲耐性が高まります。
イーサリアムは今からでも投資するべき?
イーサリアムの投資判断には リスク許容度・投資期間・ポートフォリオ全体での役割の 3 点が欠かせません。
イーサリアムは 高ボラティリティ資産である一方、DeFi や RWA の基盤トークンという“実需”が伴います。
- 短期:価格変動が激しく、イベントドリブンで 20‒30 % の上下は珍しくない
- 中期:EIP-4844 の波及で手数料収入回復が期待され、TVL とエコシステム指標を要チェック
- 長期:Verkle トライ・リステーキング経済の定着、量子耐性対応といった“10 年計画”が視野
資産全体の 1‒5 % 程度を**“ミドルリスク枠”**として組み込み、価格下落局面でも DCA(ドル・コスト平均法)で積み立てる戦略が現実的です。
ステーキングや L2 への流動性供給で 追加リワードを得る手段もありますが、スマートコントラクトリスクと 流動性ロックリスクのバランスを必ず確認しましょう。