仮想通貨DAIとは?基本概要
仮想通貨のDAIは、ステーブルコインの1種です。
まずは、DAIが「スマートコントラクトだけでドルペッグを維持する」点で他のステーブルコインと一線を画すことを押さえてください。
発行と償却の流れ、そしてドルとの連動を保つための補助仕組みについて詳しく解説します。
スマートコントラクトで完結する発行と償却
スマートコントラクトとは、ブロックチェーン上で自動執行されるプログラムのことです。ユーザーはまず Vault(貸付保管庫) に担保資産を預け、担保価値に応じたDAIを生成します。
1 ETHを担保にする場合、最低でも150%の担保比率(=ETH時価が発行DAIの1.5倍以上)が求められるため、システム全体が担保超過で運転されます。
担保価値が清算比率を割り込むと、自動的に 清算オークション が開始され、第三者ボット「キーパー」が担保を競り落としてDAIを回収します。
この仕組みのポイントは、発行から清算までの全プロセスがオンチェーンで完結し、人間の裁量が介入する余地が極小化されていることです。従来の銀行のように中央管理者がいないため、検閲耐性と透明性が高いというわけです。
さらに、償却はユーザーがDAIを返済して担保を引き出すだけで完了します。
借入額+安定手数料(後述)を返すと、スマートコントラクトが即座にDAIをバーン(焼却)し、担保を解除します。これにより流通量が自律的に調整され、過剰なインフレが抑えられます。
担保超過モデルとPSMによるドルペッグ維持
担保超過モデルは、危機時でも「担保を売れば必ずDAIを買い戻せる」という信頼感を生みます。
ただし暗号資産は価格変動が大きいため、極端な暴落時には担保不足が発生しやすいという弱点があります。
そこで2020年に実装されたのが PSM(Peg Stability Module) です。
PSMは、USDCなどの中央集権型ステーブルコインと1:1で即時交換できる窓口を提供し、需給が急変したときの緊急流動性を確保します。簡単に言えば「分散型の核をUSDCという中央集権型の盾で守る」ハイブリッド設計です。
以下に、ペッグ維持メカニズムを要素別にまとめます。
- 担保超過比率
- 清算オークション
- PSMによるバックストップ
- DSR(利子率)調整
ペッグが外れそうなときは、まずPSMがUSDC⇄DAIの裁定を促し、それでも戻らなければ担保清算や金利政策で需給を緩和します。
結果として、これまでの大規模ショックでも短期間で1 DAI≒1 USDに回帰してきました。
DAIは安全?担保構造と清算メカニズムを解説
ここでは、「そもそもDAIを裏づける担保は健全なのか」「清算は本当に機能するのか」という疑問に答えます。
多様な担保資産と清算オークションの流れ
発行当初はETHのみが担保でしたが、2019年末にLINK、UNI、WBTCなど主要トークン、さらにはトークン化国債まで対象が拡大しました。
これによりボラティリティ耐性が向上し、特定資産にリスクが集中する事態を回避できます。
清算オークションは、担保ごとに設定された 清算比率 を下回ると発動します。手順は次のとおりです。
以下にフローを示します。
- 自動トリガー:Vaultが清算比率を割ると即座にオークション開始
- 入札フェーズ:キーパーが担保をDAI建てで競り落とす
- 債務償却:落札代金で債務清算、余剰があればVault所有者へ返却
- 失敗時バックストップ:入札不足の際はPSM経由でUSDCに替えて穴埋め
ガバナンス投票と監査体制が支える信頼性
DAIを統治するのは、MKRトークン保有者によるMakerDAOです。
パラメータ変更は、週次のガバナンスポール、月次のエグゼクティブ投票、の二段階で可決され、さらに24時間の Governance Security Module(GSM) 遅延が設けられます。
これにより、大口ホルダーが不意に悪意あるアップグレードを実行するリスクが低減されます。
スマートコントラクト自体は監査済みコードに固定されており、緊急停止などの特権的コマンドは存在しません。コード変更が必要な場合でも、ガバナンス投票とタイムロックを経るため、コミュニティが内容を精査する時間的余裕があります。
外部監査法人による年次コードレビューや、バグバウンティプログラムも実施されており、集中管理者不在ながら一定のセキュリティ品質を担保しています。
DAIの購入方法
実際にDAIを購入する方法を、初心者でも迷わないように解説します。
- アカウント作成・KYC(身分証提出)
- 日本円またはUSDT/USDCを入金
- 現物でDAI/JPYやDAI/USDTペアを購入
DAIは国内取引所でも取り扱われており、bitbankなどで購入できます。
DAIのメリットとデメリット
DAIを保有・活用するときのメリットとデメリットを整理します。
DAIのメリット
メリットを把握することで、他のステーブルコインでは得られない独自価値が見えてきます。以下に要点を示します。
- 中央管理者不在の検閲耐性
- 担保超過モデルによる信用リスク低減
- DSRでパッシブ利回りを獲得可能
- DeFiとのコンポーザビリティが高い
- マルチチェーン対応で送金コスト削減
検閲耐性は、特定アドレスが凍結されたUSDC事案との対比で語られることが多いポイントです。
担保超過は、ブラックスワン発生時に備える「保険」と考えればコストを納得しやすいでしょう。
DSRによる利息は、市場金利に応じて変動するため、パッシブ運用先として一定の魅力があります。
DAIのデメリット
一方で、過度に楽観視すると痛い目を見るリスクも存在します。以下に注意点を挙げます。
- 清算時にガス高騰が重なると担保流出リスク
- PSM経由でUSDC依存度が上がると検閲耐性が低下
- ガバナンス参加率低下による権限集中懸念
- Vault運用には継続的なモニタリングが必要
- 法規制強化でRWA担保が拘束される可能性
清算とガス高騰が重なると実質的に「時間切れ清算」が起こり、担保ごと失うケースが過去に報告されています。また、PSMにUSDCが偏在すると、USDC側の規制や凍結リスクが波及します。
ガバナンス集中はDAO一般の課題ですが、MakerDAOでも上位10アドレスが投票パワーの過半を握る局面があり、警戒が必要です。
DAIと他ステーブルコインとの違いを比較
DAIを評価するときは、USDC・USDT・FRAXといった競合ステーブルコインとの比較が欠かせません。
設計思想・リスク・流動性の3軸で違いを整理します。
以下に主要項目の比較表を示します。
項目 | DAI | USDC | USDT | FRAX |
---|---|---|---|---|
ペッグ維持手法 | 担保超過+PSM | 銀行準備100% | 銀行準備(詳細非公開時期あり) | 部分担保+アルゴ |
担保内容 | ETH, RWA, 他トークン | 現金・T-Bills | 現金・商業手形等 | USDC+FXS |
発行主体 | 分散型DAO | Circle社 | Tether社 | Frax Finance |
検閲耐性 | 高 | 低 | 低 | 中 |
DEX流動性 | 高 | 中 | 中 | 高 |
表から分かるように、DAIは「分散性と担保超過」を両立させつつ、PSMで流動性を補強したハイブリッドモデルです。USDCやUSDTより検閲耐性が高い反面、過剰担保ゆえに資本効率が落ちます。FRAXは効率重視ですが、FRAX Share(FXS)の価格に依存するため安定度ではやや劣後します。
こうした設計差が露呈したのが、2023年3月のUSDCデペッグ事件です。
銀行破綻でUSDCが0.88 USDまで下落した際、DAIはPSM経由でUSDC比率が高かったため一時的に0.90 USDまで下がりましたが、清算オークションが不要であった点は注目に値します。
USDCの特徴は以下の記事で詳しく解説しています。
仮想通貨のUSDCとは?基本概要や他のステーブルコインとの違いを解説
現状最も利用されているステーブルコインのUSDTとの違いも知りたい方は、USDTについて詳しく解説している以下の記事をお読みください。
仮想通貨のUSDTとは?基本概要や他のステーブルコインとの違いを解説
DAIの活用事例
DAIが実社会やDeFiエコシステムでどのように使われているのか、具体例を通して解説します。
- 国内レンディングサービスでの活用
- DeFiレンディングとDSRの活用
- 新興国での価値保存・決済利用
国内レンディングサービスでの活用
DAIを保有しながら最も手軽に収益を狙うなら、国内レンディングサービスでの活用がよいでしょう。
仮想通貨レンディングでDAIをレンディングすることで、利回り収入を獲得できます。
国内レンディングサービスの貸とくなら、年利10%程度の利回りを提供しています。
レンディングは仮想通貨を一定期間預けるので、預けている間に価格変動が発生しても対応しづらいのがデメリットですが、ステーブルコインなら価格変動が基本的にはないためそのデメリットを消すことがあります。
仮想通貨レンディングを始めたい方は、以下の記事で詳しく解説しているのでお読みください。
仮想通貨レンディングとは?メリットやリスク、どれだけ増えるのかを解説!
DeFiでの運用
DAIはレンディング市場で「預けやすく借りやすい資産」として確固たる地位を築いています。
Aave v3やCompound IIIでは、DAIを供給すると同時に裏側でDSRコントラクトにステークする仕組みが実装され、単純預金より高い実質利回りを提供しています。
DSR(Dai Savings Rate)は、MakerDAOが設定する公式金利です。
利上げ後、約2.2億DAIが3週間でDSRにロックされたデータは、「金利で流通量を調整する中央銀行的機能」がDAOレベルで機能した事例として注目されました。
加えて、sDAI・rsDAIといった「DSRステーク済みのラップトークン」が登場したことで、ユーザーは利回りを享受しつつ、トークンをDeFi取引の担保や流動性供給に再利用できるようになっています。
これにより、「資本効率を犠牲にしないパッシブ運用」が実現し、CEXレンディングに依存しない新しい利回り源泉が形成されています。
新興国での価値保存・決済利用
インフレ率が二桁に達する国では、DAIが“デジタルドル口座”の役割を果たしています。アルゼンチンやトルコのP2Pマーケットでは、法定通貨より高いプレミアムを支払ってでもDAIを確保するケースが報告されています。
技術的なハードルを下げるため、モバイルウォレットアプリが「銀行カードでUSDTを購入 → ワンクリックでDAIへスワップ → 自動でDSRにステーク」という一連のフローをUIに組み込む動きもあります。
これにより、ユーザーは“隠れドル預金”としてDAIを保有し、物価上昇から資産を守る手段を容易に得られます。
送金領域では、フリーランサー報酬の即時決済手段としてDAIが採用される事例が増加中です。
特に、従来の国際送金では手数料が10%近く取られる地域で、DAI送金は数分・数十円相当のガスコストで完了するため、受取側がそのままDSRにステークして為替リスクをヘッジする運用が普及しつつあります。
DAIのリスクと注意点
メリットが際立つ一方で、DAIには特有のリスクが存在します。
市場ショックや規制変化といった「外から押し寄せる波」にどう備えるかを解説します。
市場ショック時のペッグ乖離リスク
DAIのペッグ維持は担保超過とPSMによって下支えされていますが、極端な暴落局面では清算オークションが機能不全に陥る可能性があります。
2020年3月のブラックサーズデーでは、ガス手数料高騰で入札者が集まらず、0DAI落札という事案が発生しました。このときMakerDAOは約830万ドルの負債を抱え、MKRの追加発行で穴埋めする苦渋の決断を迫られました。
この経験から、MakerDAOはオークション形式を改良し、最低入札価格とイングリッシュ式の導入、さらにPSMにUSDCを貯蔵する“緊急流動性プール”の積み増しを進めています。
とはいえ、ガス代急騰と担保暴落が同時に起きるリスクはゼロではありません。DAI保有者としては、Vaultを運用する際に清算比率+20~30%の余剰担保を意識し、価格アラートを設定しておくことが現実的な防衛策となります。
規制・ガバナンス課題と対策
規制強化により、USDC依存度が高いPSMの運用が制限されるシナリオや、RWA担保へのKYC要件が厳格化されるシナリオが想定されます。
これに備えMakerDAOは、USDCの保有上限を動的に制御する仕組みや、フェイルセーフとしての「マルチカレンシーPSM(例:USDP、GUSD対応)」を提案中です。
ガバナンス面では、投票参加率の低下と大口MKRホルダーへの権限集中が長年の課題です。Endgame計画では、サブDAOが独自トークンで“声の借入れ”を行い、投票権をリクイディティマイニングで分散させる仕組みが検討されています。
こうした改革が進むまでは、ユーザー側も「提案内容を確認して投票に参加する」「情報発信コミュニティに参加する」など、小さなアクションを積み重ねることがガバナンス健全化への近道です。
DAIの将来性と今後の展望
DAIは2024年以降の暗号資産市場で、単なるステーブルコインを超えた「分散型ドル経済圏の基軸通貨」として期待されています。
MakerDAOが示したEndgame計画を軸に、中長期的な供給拡大シナリオと規制環境の変化がDAIにもたらす影響を考察します。
Endgame計画と供給拡大シナリオ
Endgame計画は、「10兆DAI」という野心的な供給目標を掲げ、既存のガバナンス構造をサブDAO(テーマ別モジュールDAO)へ段階的に置き換えるロードマップです。
第1フェーズ(2024年夏予定)では担保パラメータ更新を自動化し、サブDAOトークンを用いた流動性インセンティブが導入されます。
これにより、Vault金利やDSR利回りがオンチェーン指標に連動して動くため、市場環境への追随速度が向上する見込みです。
サブDAOの分権設計は「専門チームが特定担保や地域市場を担当する」仕組みであり、メタガバナンスとしてのMKR保有者は複数サブDAOの成果を束ねる役割を果たします。
担保拡大の意思決定がボトルネックになりにくくなるため、新興国債券やエネルギー資産など、従来扱いが難しかったRWA(Real World Asset)の取り込みが加速すると予測されています。
MakerDAOは2024年から2026年にかけ、年間1~2兆円規模のRWA担保枠拡張を目安に掲げています。担保利回りがDSRの原資へ直結するため、DSRは従来の「数%」レンジから段階的に上方シフトするシナリオも想定されます。
利回り上昇はDAI需要を押し上げ、循環的に供給拡大を促進するため、Endgame計画の実行が市場拡大の鍵を握ると言えるでしょう。
規制動向とRWA担保の進展
規制面では、米国のStablecoin Act再提出と欧州MiCA全面適用(2025年末予定)が焦点です。
どちらの法案も「裏付け資産の開示義務と発行者ライセンス」を盛り込んでおり、中央集権型ステーブルコインに直接的な影響を与えます。
DAIは発行主体がDAOであるため形式的にはオフショア構造を保てますが、実質的にUSDCや国債トークンを保有する以上、間接的な規制波及は避けられません。
この課題に対し、コミュニティは「RWA保有SPV(特別目的車)」をDAOの外側に設立し、担保資産とガバナンスを分離する案を検討しています。
具体的には、米国籍のSPVが国債トークンを保有し、DAOはトークン化証書のみを扱う形です。規制当局の監督をSPV単位に留めることで、DAO全体の自由度を確保する狙いがあります。
規制強化と並行して、トークン化国債市場そのものは成長が期待されます。Ondo FinanceやBacked Financeが提供する短期国債ETFトークンは、2025年Q1時点で累計発行額10億ドルを突破しました。
DSRの原資ポートフォリオを分散させることで、DAIの利回り安定性が高まり、将来的に「オンチェーンMMF(マネー・マーケット・ファンド)」的な位置付けになる可能性があります。
DAIについてよくある質問
最後に、読者から寄せられる代表的な疑問にQ&A形式で回答します。
- DAIは円建てリスクヘッジになる?
- 保有中に金利はつく?
- 清算に巻き込まれる条件は?
- 日本の取引所でDAIを買う方法
DAIは円建てリスクヘッジになる?
DAIはドルペッグで推移するため、円安局面ではドル資産と同様の為替差益が期待できます。
ただしペッグが100%維持される保証はなく、短期的に±1~2%の乖離が生じる場合もあるため、完全なヘッジを求める場合はUSDCやドル預金と組み合わせて分散するのが現実的です。
保有中に金利はつく?
DAI自体には金利機能はありませんが、レンディングサービスに預けることで金利収入を獲得できます。
清算に巻き込まれる条件は?
Vaultの担保価値が清算比率(例:150%や170%)を割り込むと、スマートコントラクトが自動的に清算オークションを開始します。
担保価格が急落しても、余裕を持った担保比率を維持していれば清算を回避できます。推奨される安全マージンは、清算比率+20%以上です。
日本の取引所でDAIを買う方法
2025年6月時点で、国内登録済み取引所のうちDAI現物取扱いがあるのはGMOコインとbitbankです。
口座開設後、円入金→DAI/JPYペアで購入できます。取扱いがない取引所を利用している場合は、一度USDTやBTCを購入し、海外CEXやDEXでDAIに交換するルートが一般的です。